書評

一度は読んでおきたい国際ノンフィクションノベル、落合信彦作品

落合信彦氏をご存知でしょうか。

私と同世代のアラフィフ以上の方なら、アサヒスーパードライのCMでよく知っていると思います。

若い世代では、落合陽一氏のお父さんと言えば、そうなんって感じでしょうか。

彼の著作には賛否がありますが、小説はめちゃ面白くおすすめなので、そんな作品を紹介したいと思います。

ザ・スクープ

私が最初に出会った落合信彦作品です。

主人公の国際ジャーナリストが、世界を揺るがす大スクープをつかむ話です。

国際ジャーナリストである落合信彦氏と主人公が重なります。

あらすじ

主人公の国際ジャーナリスト、兼城は知り合いの編集長、千島の依頼でロサンゼルスに取材に行きます。

目的は、日本のヤクザが死体で発見されたから。ヤクザの西海岸進出に関するレポートを作成するためです。

死体を見た兼城は、つい最近このヤクザに会ったことに気づく。と言うより、この男、ヤクザではなく自分はCIAのエージェントで、KGBエージェントのカバーを持つ、ダブル・スパイであると告白していました。

この男、CIAで働いていたのは、祖国北朝鮮の南北統一に向けて助けになると信じていたが、その思いが間違っていたことに気づき、CIAを辞め全てを告白したいと言ってきた。

この告白こそが、世界を震撼させる内容でした。米ソで結ばれた条約SALTⅡの裏条約に関するものでした。

裏条約とは、世の中に発表される表向きの条項とは別に、秘密裏に結ばれる超極秘の条項のことで、決して表には現れない内容のものです。

兼城は、このスパイから核心の裏条約について聞き出す前に、CIAによってスパイを抹殺されてしまいます。

このことで、兼城は真相を探るため、裏条約に関わったCIAケースオフィサー、ハリーを見つけ出し、ついに真相を突き止めます。

世紀の大スクープをつかみ、原稿を書き、出版目前となったとき、兼城は発表を断念します。

それは、一人の女の為に・・・。

感想

落合作品に共通して言えるのは、登場人物がみんな魅力的でカッコいいです。男は男らしく、女は女らしく。今のご時世とはちょっと違和感ありますが。

兼城も女好きで、ウエスト57cm以下じゃないと魅力を感じないとか。

SALTⅡの裏条約についての信憑性はともかく、そのスケールの大きさと迫力は読み物として面白いです。

男たちのバラード

短編集です。どれも落合節満載の快作揃いです。

首狩り部隊

主人公の英介は、アメリカの大学を出て2年が過ぎた頃、当時在学中、空手を教えていたジェイソンから電話を受けた。同じく空手を習っていたサンチャゴと共に、ベトナム戦争に出兵していたが、今帰国したという連絡だった。サンチャゴは一緒かと聞いた英介に対し、ジェイソンは、サンチャゴは戦死したと伝える。サンチャゴの死の真相とともに、彼らが入隊後の訓練経験から、ベトナムでの戦闘の真実を聞かされる。それは、首狩り部隊と呼ばれる特殊部隊についてだった。

首狩り部隊が実際に存在していたかどうかはともかく、ベトナム戦争の凄惨さと国家のために命がけで戦った兵士の悲哀を描いた物語です。息子を亡くした母親の気丈さが印象的です。

ハスラーたちの墓場

石油メジャーと戦うオイルマン村瀬の物語です。世界の石油業界を牛耳るセブンシスターズと呼ばれる石油メジャーと、インディペンデントの村瀬が、世界中の石油採掘権をめぐって争います。石油ビジネスは出るか出ないかという史上最大の丁半バクチと言われています。そんなオイルビジネスで一発当てようと、騙し騙されのドロドロした世界が描かれています。

独自の情報で石油メジャーに一泡吹かせた村瀬が、メジャーはそこまでやるかという荒業で一杯食わされます。詳しくは読んでみてください。

暗殺契約

「ハスラーたちに墓場」で登場した村瀬が、学生時代の親友アンジェロとの物語です。アンジェロはマフィアのドンの息子ですが、マフィアを嫌い、人との付き合いを避けていました。そんななか、村瀬がチンピラに絡まれていたアンジェロを助けたことがきっかけで急速に親密になります。その二人が大学の卒論テーマにケネディ暗殺事件を取り上げようとしましたがテーマが大きすぎて時間が足りず断念します。その後、二人は別々の道を歩みます。村瀬はオイルマンとして、アンジェロは嫌っていたマフィアの世界に足を踏み入れます。数年たち、村瀬はオイル業界から足を洗ったあと、学生時代に出来なかったケネディ暗殺を調査し始めます。大部分の調査を終えたところ、どうしても分からないところがあり、今やマフィアの幹部となったアンジェロのことを思い出し連絡を取ります。アンジェロにケネディ暗殺について調べていること、大部分の調査を終え自分なりに核心に近づいていること、あと少し分からないところがあり、情報が欲しいことを伝えます。アンジェロはこのことは二度と聞くな、今話したことも忘れろと言いますが、村瀬の熱意と、命を助けられた恩から、ヒントを与えます。これがきっかけで村瀬は核心に迫りますが同時に命の危険にさらされます。そしてラスト・・・。

落合作品は、オイルマンとか、国際ジャーナリストとか、ケネディ暗殺とか、空手家とか、主人公が落合氏自身を連想させます。小説として面白いので、真偽はどうでもいいと思いますが。

KGBイリーガル

KGBとは、旧ソ連の諜報機関です。1991年ソ連崩壊とともに解散しました。そのKGBがアメリカに派遣したエージェント、セルゲイの物語です。彼は優秀であるがゆえ、KGBに目を付けられ貧しい家族のためにパンを盗ませるという罠にかかり、KGBで働くことを半ば強制されます。KGBにより徹底的に訓練され、アメリカ人としてアメリカに潜入します。ところが、この行動がCIAのエージェントによってアメリカ側に筒抜けになっています。このCIAエージェントは、KGBで働く、いわいる二重スパイです。セルゲイはアメリカに渡って直ぐに逮捕され、CIAの二重スパイ(ダブル)として働くことを提案されます。これを断って、ソ連に強制送還されれば、彼は失敗者の烙印を押され、一生シベリア送りにされます。セルゲイはCIAの提案を受け入れ、ダブルとして働きます。スパイの世界においてダブルは捕まれば即処刑という極めて危険な任務です。そのセルゲイにある日、本国から直ちに帰還するよう命令が下されます。セルゲイは家族のことを思い、ソ連に戻ることを決意するが・・・。

落合作品に度々登場する、CIA、KGB、ダブル・・・。現実離れした話のようにも思えますが、彼らの物語に心動かされます。東西冷戦時代にはもしかして本当にこんなことあったのかも、みたいな。

プレイボーイ・インタビュー(おまけ)

この本、最後に落合氏のインタビューが掲載されています。

落合氏がアメリカ留学する過程、アメリカで空手を教えていたこと、オイルビジネスのこと、CIAに友人が200人ぐらいいることなどなど。

信じるか信じないかは、あなた次第です。

最後に

落合作品にはこの他に読み応えのある小説がたくさんあります。好き嫌いはあると思いますが、興味のある方は是非一読してみてください。

それでは、最後まで読んで頂きありがとうございました。

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